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福岡高等裁判所 平成2年(ネ)834号 判決 1992年1月30日

一審原告(控訴人兼被控訴人・以下「一審原告」という。) マルキ商事不動産部こと 木村トシ子

右訴訟代理人弁護士 城谷公威

一審被告(控訴人・以下「一審被告」という。) 笹嶋登

一審被告(被控訴人・以下「一審被告」という。) 田島春生

右両名訴訟代理人弁護士 片山昭彦

主文

一1  一審被告田島に対する一審原告の控訴を棄却する。

2  右控訴に関する控訴費用は、一審原告の負担とする。

二1  一審被告笹嶋の控訴に基づき、原判決中、同一審被告に関する部分を次のとおり変更する。

2  同一審被告は、一審原告に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成元年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審原告の同一審被告に対するその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を一審原告の負担とし、その余を同一審被告の負担とする。

5  この判決は、第二項2に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  一審原告

1  原判決中、一審被告田島に関する部分を取り消す。

2  同一審被告は、一審原告に対し、金五三五万五〇五四円及びこれに対する平成元年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも同一審被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  一審被告笹嶋

1  原判決中、一審被告笹嶋敗訴部分を取り消す。

2  一審原告の同一審被告に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて一審原告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、一審原告の媒介により、原判決添付の別紙物件目録記載の土地「以下「本件土地」という。)について一審被告笹嶋と一審被告田島との間に売買契約が成立したとして、一審原告がその媒介報酬金及び遅延損害金を請求する事件である。

一  争いのない事実

1  一審原告は長崎県知事の免許を受けた宅地建物取引業者であり、濵田律子(以下「濵田」という。)は一審原告の専任の宅地建物取引主任者である。

2  土地、建物の売買契約の媒介報酬について、宅地建物取引業法四六条一項及び建設省告示第一五五二号に基づく報酬限度額は、売買代金に三パーセントを乗じた額に金六万円を加えた金額である。

二  争点

1  一審原告の主張

一  濵田は、昭和五八年五月一二日、一審被告笹嶋から本件土地売買の媒介を受託し、以来一審被告田島との間で交渉を重ねた結果、同一審被告からも右媒介を受託することになり、平成元年四月一九日、その媒介により一審被告笹嶋と同田島間に売買代金を一億八〇〇〇万円とする本件土地の売買契約が成立した。したがって、一審原告は、一審被告笹嶋及び同田島に対し、それぞれ前記告示により算出される報酬限度額五四六万円のうち金五三五万五〇五四円を右媒介報酬金として請求する。

二  仮に、本件土地の売買契約が形式上一審原告の媒介によらずに成立したとしても、一審被告笹嶋及び同田島は、本件土地の売買契約が濵田の媒介により成立した場合、一審原告に対してその報酬を支払わなければならないことを知りながら、媒介報酬金が廉価になることを奇貨として、一審被告田島の取引銀行である親和銀行行員の紹介により、宅地建物取引業者の岩田商事こと岩田重剛(以下「岩田」という。)を利用することを決意し、一審原告を排除して本件土地の売買契約を成立させたものであるから、一審原告は、前記媒介契約の報酬請求権の停止条件が成就したものとみなして、一審被告笹嶋及び同田島に対し、それぞれその報酬金として前記金額を請求できることになる。

三  よって、一審原告は、一審被告笹嶋及び同田島に対し、各自右媒介報酬金五三五万五〇五四円及びそれぞれに対する本訴状送達日の翌日である平成元年九月八日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 一審被告笹嶋及び同田島の主張

一審被告笹嶋及び同田島は、本件土地の売買契約の媒介を岩田に委託したことはあっても、一審原告に委託したことはなく、本件土地の売買契約は、平成元年五月八日、岩田の媒介により成立したものである。

3 一審被告笹嶋の主張

仮に、一審被告笹嶋が一審原告に対して本件土地売買の媒介を委託したとしても、その際、一審被告笹嶋は、本件土地の売買価格が一億八〇〇〇万円未満の場合は媒介報酬金を支払わないとの条件を付し、一審原告もこれを了承していた。したがって、本件土地の売買価格は一億七六五〇万一八一八円であるから、一審原告は、一審被告笹嶋に対して報酬金を請求できないことになる。

第三当裁判所の判断

一  まず、一審被告笹嶋に対する請求について判断する。

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一) 昭和五八年四月ころ、濵田は、一審被告笹嶋から本件土地を二億円なら売却しても良い旨の意向を聞き、その際は媒介させて欲しい旨を同一審被告に依頼してその了解を得ていたものの、価格が時価より高いこともあってしばらくは放置していた。

(二) その後、昭和六一年一二月一三日ころになって、濵田は、本件土地の価格も時価相当になっていたので、同一審被告に対して本件土地が売却済みか否かを確認する傍ら、一審原告が本件土地の売買の媒介をすることについて了解を求めたところ、同一審被告から最終値を一億八〇〇〇万円とする旨の指示を受けるとともに、媒介の委託を得た。そこで、一審原告は、昭和六二年一月八日物件速報に価格一億八〇〇〇万円で本件土地売買の媒介をする旨掲載したのを初め、以後も同様の広告をしたり、買受希望者を探したりする一方、濵田も、本件土地の隣接地を所有する一審被告田島に対して媒介行為に必要な重要事項を説明の上、幾度となく本件土地の購入方を勧めてきたが、価格等が折り合わず売買契約成立には至らなかった。

(三) ところが、平成元年四月一九日ころになって本件土地の確実な買受希望者が見つかったため、濵田は、最後の勧誘をしようと依頼者欄のみが空白の専任媒介契約書と重要事項説明書を持参して一審被告田島宅を訪問し、同一審被告に対して確実な買受希望者がいる旨告げるとともに、本件土地の売買代金一億八〇〇〇万円については坪単価二四〇万円として実測面積によって右代金を調整する、手付金は一〇〇〇万円として残代金は一括して支払う旨の契約内容を説明して購入方を勧め、右専任媒介契約書に署名を求めた。これに対し、同一審被告は、契約内容についてはこれを了解する意向を示したものの、売買契約書の作成や専任媒介契約書への署名については、取引銀行である親和銀行浦上支店と相談したいので、二、三日待って欲しい旨述べて断った。そこで、濵田は、その日のうちにこの経過を一審被告笹嶋に報告してその了承を得たが、同一審被告は、濵田が持参した依頼者欄が空白の専任媒介契約書への署名については、手付金を受領したときにしか署名しないことにしているとしてこれを断った。

(四) その後、濵田は、同月二二日ころになって一審被告田島にその後の様子を尋ねたところ、「無理をしても大変だから、今回は止めておく、買わない」との返事を得る一方、一審被告笹嶋からも、同年五月九日本原自動車学校の社長から本件土地の買受申込があった旨の連絡をした際に、「もう売らない、頭を冷やして考えてみるから、売り止め」と本件土地の売買の中止を告げられた。

(五) 他方、岩田は、平成元年四月二〇日ころ、一審被告笹嶋から本件土地が一審被告田島に売れそうである旨を聞き、同月二五日ころ、同一審被告への融資取引の拡大を望んでいた親和銀行浦上支店の大野次長を同道の上、大野から同一審被告に対する融資は確実である旨説明させるとともに、同一審被告に本件土地の購入方を勧めた。その結果、同一審被告が本件土地の購入について前向きの意向を示したので、岩田は、その旨一審被告笹嶋に連絡する一方、一審被告田島から専任媒介契約書を取得した。

(六) 一審被告笹嶋と同田島とは、同年五月八日、親和銀行浦上支店において、岩田の媒介で、本件土地の売買代金を坪当たり二四〇万円としたうえでこれに実測面積を乗じた額から一〇〇万円を控除した額とする、手付金は一〇〇〇万円とし、残金は後日実測して一括精算する旨の本件土地の売買契約(以下「本件売買」という。)を締結し、一審被告田島から同笹嶋に手付金として一〇〇〇万円が交付された。

(七) その後、一審被告田島は、同年七月一四日、親和銀行浦上支店からの融資金をもって、本件売買の残代金を一審被告笹嶋に支払い、岩田に対して媒介報酬として三五〇万円を支払った。なお、本件については、その後の実測により、面積が二四二・六九平方メートルとして売買代金が一億七六五〇万一八一八円と確定され、一審被告田島から同笹嶋に対して本件売買の残代金が精算された。

以上の事実が認められる。

ところで、原審証人濵田の証言中には、一審被告笹嶋から本件土地売買の媒介を受託するに際し、その報酬は売買代金の三パーセントに六万円を加えた額であることを説明してその了解を得た旨の証言があるが、その後、一審原告らから一審被告笹嶋に対して送付された右報酬金の支払請求の書面には右内容にそう記載はないうえ、原審及び当審における一審被告笹嶋本人尋問の結果に対比すると、すぐには右証言内容を採用することはできない。したがって、前記認定事実から明らかなように昭和六一年一二月一三日ころ一審原告と一審被告笹嶋との間に本件土地売買の媒介委託契約(以下「本件媒介委託」という。)が成立したものと認められるが、その他の証拠をもってしても本件媒介委託において報酬の定めがあったことは認められないので、結局、本件媒介委託においては報酬の定めはなかったものと認めるのが相当である。

また、争点3に関して、《証拠省略》にはその主張内容にそう供述があり、また《証拠省略》にもこれにそう記載があるが、前記認定のように、本件媒介委託が成立した後は、一審原告は当初から代金額を一億八〇〇〇万円として媒介行為をしてきた事実、乙第四号証の作成日は平成元年二月二五日と記載されているが、その免許証番号は岩田が同年三月一九日以降においてはじめて付すことができる番号が付されているので、同号証は後日作成された疑いが極めて強く、その信用性に欠けることなどからすると、右各供述及び右乙号各証の記載は原審及び当審証人濵田の証言内容と対比してすぐには採用できず、他に争点3の事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、争点3の主張は、理由がない。

2  ところで、不動産の媒介契約における委託者が、受託者たる宅地建物取引業者の媒介行為により紹介された相手方との間で、右業者を排除して直接又は他の業者の紹介により売買契約を結んだ場合、右受託者の媒介行為と成立した売買契約との間に相当因果関係が認められるときは、報酬支払についての約定の有無にかかわらず、報酬が媒介行為の対価たる性質を有する以上、右受託者はその範囲内において媒介行為により寄与ないし貢献した内容に応じた額の報酬を委託者に対して請求できるものと解するのが相当である。本件についてこれをみるに、前記認定事実から明らかなとおり、本件媒介委託成立後濵田が一審被告田島との間で折衝を重ねた結果、本件土地の売買代金やその支払方法についてわずかの調整を残すばかりとなっていた段階で、一審被告笹嶋が岩田に媒介を委託して濵田を除外した上、それから二〇日もたたないうちに、濵田が説明した額をわずかに下回る額で、かつ、手付金にいたっては全く同一内容の本件売買を締結したのであるから、本件売買は濱田の媒介行為との間に相当因果関係があるものと認めるのが相当である。したがって、一審被告笹嶋は、一審原告に対して本件媒介委託に基づく報酬金の支払義務を負っていることになり、その額については、前記認定の濵田の媒介行為の内容やそれによって本件売買が成立間近にあった状況、本件売買の内容などから認められる一審原告の本件売買成立における寄与割合、他にも確実な買受希望者を見つけていたこと及び一審被告田島は岩田に媒介報酬三五〇万円を支払っているが、一審被告笹嶋はその支払をしていないことなどの諸般の事情を総合すると、金四〇〇万円が相当であると認める。

二  次に、一審被告田島に対する請求について判断する。

前記認定事実によれば、一審原告と一審被告田島との間には、本件売買に関して明示の媒介委託契約はもとより、黙示の媒介委託契約も成立したものとは認め難い。そして、濵田の本件媒介委託に基づく右媒介行為は、単に委託者である一審被告笹嶋のためにしたものであって、一審被告田島の意向を酌んで一審被告笹嶋との折衝を重ねた事実は窺えず、一審被告田島に買受方の勧誘をしていたものにすぎないから、客観的にみて一審被告田島のためにする意思をもって媒介行為をしたものとも認められない。したがって、一審原告は、一審被告田島に対して媒介契約に基づく報酬金のみならず商法五一二条に基づく報酬金の請求もできないといわなければならない。

三  以上のとおり、一審原告の本訴請求のうち、一審被告笹嶋に対する請求は報酬金四〇〇万円及びこれに対する本件記録上訴状送達日の翌日であることが明らかな平成元年九月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、一審被告田島に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、一審原告の一審被告田島に対する控訴は理由がないのでこれを棄却するが、一審被告笹嶋の本件控訴に基づき、原判決中一審被告笹嶋に関する部分を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松島茂敏 裁判官 中山弘幸 德嶺弦良)

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